トップ下から姿を消したファンタジスタ

ゴール

かつてのサッカーにおいて、トップ下といえば花形ポジションのひとつであり、そこで活躍する選手たちは、まるで魔法のように相手プレーヤーを翻弄することから、ファンタジスタの異名を与えられました。しかし、その栄光の時代も長くは続きませんでした。

まず初めに彼らから仕事場を奪ったのは、ストライカーでした。ルチアーノ・スパレッティ時代のローマにおけるフランチェスコ・トッティや、ジョゼップ・グアルディオラ時代のバルセロナのリオネル・メッシなど、本来はストライカーのポジションにいた彼らは、しばしばトップ下のポジションまで下がり、仲間のためにチャンスメイクをしながら、自身も得点という決定的な仕事をこなしてきました。これにより、単純なチャンスメーカーでしかなかったタイプのファンタジスタは、そのポジションを追われることとなったのです。

また、攻守の切り替えをより素早く、繋ぎ目なく行うことを要求される現代サッカーでは、最前線の選手からの、連動したハードワークによる激しい守備が求められるようになりました。これは、体力ではなく個人の技術にのみ頼って局面を打開しようとするファンタジスタにとって、大きな転機となりました。激しくボールへプレッシングがかけられることにより、前線には人が密集し、ファンタジスタの武器である技術を発揮できる時間とスペースが圧迫されるようになってしまったのです。また、そういった技術のみに頼ってきたタイプのファンタジスタは、ハードワークが求められる現代サッカーの環境に適応できず、次々と姿を消していきました。

では、現在サッカーにおいてファンタジスタはもう見られないでしょうか。それは違います。現在のその役割は、別のポジションに引き継がれることとなったのです。そのポジションとは、サイドバックです。

『偽サイドバック』などの戦術に代表されるように、優れたゲームメイク能力も要求されるようになった現在のサイドバックには、

運動量はあるが足元の技術や戦術眼に劣るタイプよりも、トップ下などでゲームメイクと個人突破能力を磨いてきた選手を、フィジカル能力を向上させてコンバートするといった現象が起きています。そしてそこが、ファンタジスタが新たに生きる場所となってきているのです。

もしかすれば、10番などの花形選手が、サイドに集中する日がくるかもしれませんね。